自意識の化物という最大の敵

人間は誰でも猛獣使いである

 高専か中学のときの国語で習った、山月記の一節だ。正しくは

人間はだれでも猛獣使いであり、その猛獣に当たるのが、各人の性情だという。

と続く。山月記の解釈については本稿では触れないが、その通りかも知れないと思ったので、それについて徒然なるままにそこはかとなく書きつくる。

 僕の場合はその性惰が「自意識」にあたる。「自我」や「自尊心」と読み替えても良いかもしれない。僕だけでなく、きっと誰しもが自意識という猛獣を心に飼っていると思う。だから僕だけが特別なわけでは勿論ないのだが、些か他人より自己肯定感と言ったものが強い自覚があるので、そう言うことにして話を進める。

 

男は二十歳で一度老成する

 僕の敬愛するヨウジヤマモト社のデザイナー、山本耀司さんがインタビューで仰っていた言葉だ。曰く、女性なんかどうでも良くなっちゃって悟りを開いたような気持ちになるらしい。まぁ、ここで主語を男に限定したのは僕としてはあまり意図はないが、やはり世間で聞く耳を持たないと言われるのは男性に多いように思う。

 閑話休題

 なるほどなぁと思ってしまった。僕も最近なんとなく自我が凝り固まってきて、他人の意見をあまり気にしなくなっていたからだ。現状困ってはないが、少し怖くなった。このまま猛獣を飼い慣らせずに虎になってしまうかもしれない。それは僕としては不本意だ。

 芯を持った人間は格好いいが、意見を曲げず他人を受け入れない人間はただのアホだ。その辺の塩梅は正に紙一重といった感じで、僕のような自己肯定感マシマシの人間は常に危うい綱渡りを強いられる。

 この心配が杞憂で終わり、社会に出た後に世間の荒波にもまれ、少し丸く、もしくは柔らかくなれればそれで良いのだが、そうならなかったときが僕は恐ろしい。かのアインシュタイン先生も「常識とは十八歳までに身につけた偏見のコレクションである」と仰っている。自我が完璧に形成されてしまった後からそれを破壊するのはきっとものすごくコストがかかることだろう。

 

若いうちは勇者でいられる

 僕はまだ若いので、猛獣を飼い慣らすことができなくなった自意識の化物たちに反感をもち、異議を唱えることができるし、間違っているという先人のアドバイスを受け入れ、道を正すことができるかもしれない。誤解を恐れず主語を大きくして言えば、世の中を正す勇者の立ち位置でいられる(面倒なので正しさの定義については置いておく)。

 しかし老衰し、他人の意見に耳を傾けられなくなった大人のなんと多いことか。自分が正しいと信じ、若者に説教をかまし、陰で老害などと囁かれる哀れな化物たちの悲しき姿を目の当たりにしたことがあるだろう。

 だが、心して欲しい。僕や貴方がそうならない保証はまったくもってないのである。そうなれば最悪である。他人に文句は言うくせに耳は貸さず、そこで時を止める無意味な残骸に成り果てる。

 そうは絶対になりたくない。なりたくないのだが、近頃どうにも他人から否定されることが少なくなってきて自意識の化物が僕のなかで肥大化しているような気がする。これまであまり大きな失敗を経験してこなかったし、勘違いでなければ慕ってくれる人一定数はいるが、調子に乗りすぎる前にここいらで高くそびえ立つ鼻を一度ポッキリと折られておかなければと思えてならないが、いっこうにその気配がない。

 そこで、ここに自戒の意味も込めて対抗策のようなものをある種の遺言的に残しておこうと思う。

 

後は頼んだ

 前述の通り、僕は自分の意見をかなり頑固に持っている方だ。多分現時点でも他人は他人だと思っているので、多少否定されたくらいでは意見を曲げることはないだろう。

 ただ幸いなことに、僕には信頼のおける友人が何人かはいる。小学生の頃からの付き合いの友人たちかもしれないし、高専のころにバンドを組んでくれていた仲間かもしれないし、大学で出会った人々かもしれない。或いは生まれた頃から十五歳に到るまで共に育ってきた兄弟かも知れない。

 僕は判定がガバいので、一度味方だと思ったらそれを覆すことはほとんどない。彼らのうちの誰でもいい、もし僕が自意識の化物に成り下がった時には「お前は間違っている」とハッキリと言ってほしい。多分ただの他人に言われても耳を貸せないだろうから。それでもダメなら多分もう僕に価値はないだろう。そうなったら厭だなあ。

 こんなところだろうか。まぁそうはならないのがベストなのだけれど。

 ただ、これから怪物退治をしようという人は自身が怪物にならないよう気を付けて欲しい。深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いているらしいからな。

 

 全く、引用の多いブログだぜ。

 

 

追記:僕がもし自己肯定感のせいでヤバイことになったときのために、ちょっと目につくところにリンクを置くことにした。ヤバそうだったら止めてくれよな。

(2019/7/31)