煙草について

 馬鹿みたいに酒をのみ明かした時も、眠れない夜も、傷ついた日も、僕の傍らには煙草があった。

 大したテーマではないけれど、今回は僕が煙草を吸う理由について考えてみようと思う。

 

 僕らは何故煙草を吸うのか

 

「なんで煙草吸ってるんですか?」

 ある飲み会で後輩に問われた。何気無い質問だったと思う。そんなもの即答出来るだろうと思った僕は、口を開いたまま暫し固まった。明確な答えが見つからなかったからだ。その時は暇潰しかなと答えた。その後に考えてYouTubeを見たり、やることもないのにTwitterを開くようなものだと呟いた。果たして本当にそうだろうか?

 

 僕が初めて煙草を吸ったのは、大学生の年になって、父親と初めて二人で飲みにいった時のことだったように思う。居酒屋で飲んだ後、美味いウイスキーを飲ませてやると言った彼は、バーに向かう道すがら、コンビニでセブンスターを買った。付け加えておくと、父は元喫煙者である。僕が幼かった頃の彼からは、微かに煙草の香りがしたような気がするが、物心ついてからは僕らの前で吸っているのを見たことがなかった。

 機会喫煙だったのかもしれない。仕事の傍ら、趣味で最近はバンドをしている父親は、練習後の居酒屋でたまに吸うのだと言っていた。

 そんな父親から貰った初めての煙草は、直前に飲み干した焼酎も相まって、見事に僕の視界を揺るがした。ヤニクラと言うやつだ。すげぇ、酒よりクラクラする。と言った気がする。

 それから僕はたまに人に貰って吸うようになった。友達と焚き火をしながら外で吸う煙草は美味かったし、卒業研究の休憩時間に研究室を抜け出して喫煙所へと向かうときはなんだかワクワクした。物は試しで買ったリトルシガーは臭すぎて保管方法に困ったが。

 それからすこしたって、二月。誕生日を迎えた僕は、ちょっと贅沢してみようと思って自分で初めて煙草を買ってみた。それが今も変わらない僕の相棒の『hi-light』だった。

 この銘柄を選んだ理由は単純で、僕の好きなブランドのデザイナーである山本耀司さんが愛飲してると知ったからである。高度経済成長気を代表するこの煙草は、昔からあるからかタールが重く、僕と同世代で吸ってる人はあまり見かけない。パッケージもいたくシンプルで、薄い水色に白色でhi-lightの文字。なんだが頑固なじいさんのようなイメージが気に入った。

 後に祖母の家を訪ねた時に、未開封のハイライトが出てきたときにはビックリしたものだ。どうやら今は無き祖父も、ハイライトを愛飲していたと知ったときには、不思議な感慨に包まれた。

 封を切り、マッチで火をつけて一服した。今までとは比べ物にならないヤニクラが僕を襲った。思わず自転車に寄りかかる。今となっては慣れたものだが、あまり煙草を吸わなかった当時の僕には重すぎた。寮までの道すがら、乗ってきた自転車を押して帰ったことを覚えている。

 

 それから月日が流れて、大学に編入した当初は機会喫煙者を名乗っていた僕も、機会が多すぎてすっかり常喫になっていた。八月にブラックバイトに捕まり本数が増えたときも、一瞬メンソールのハイライトに変えたもののすぐにレギュラーに戻っていた。行きつけの喫茶店のマスターの勧めでコイーバを一回買った後も、なんだか違う気がして今もハイライトを吸っている。

 火をつけて吸ったときの、何処か重たい煙も、吐き出した後に微かに残るラム酒の着香も、一度慣れてしまえば他の銘柄を吸う気にはならなかった。

 

 近年、嫌煙ブームのように思う。駅も全面禁煙のところが増えたし、僕の大学も敷地内に喫煙所はない。携帯灰皿を持ち歩いたり、マナーには気を使っているが、それでも嫌な人は嫌だと思う。それはこちらが悪いのは重々承知の上だ。吸わなくても良いものを、わざわざ吸っているのだから、人に迷惑をかけないよう気を使うのは最低限のマナーだと思う。コンビニまでの道すがら吸い殻が大量に落ちていたときには絶望したものだ。全部拾ってやったが。

 百害あって一理なし、とも言う。いや、一理はあるか。少なくとも、夜中に何となしに手にした煙草で、格好がつくことくらいはあると思うのだ。